銀行も大変なんだろうが、私も大変なんだよ。

おいしい日本酒の隙間を埋めるもの。何気ない心遣いが眩しく見えることがある。合理化と機能性だけを追求する中で、つい見落としがちなもの。

銀行も大変なんだろうが、私も大変なんだよ

【心遣いの礼儀】
2001年は平成3年だから、その前からのこと。行きつけのBARで「マイルエンド」という店が六本木のThe Stars and Stripes新聞社の前にあった。

何人かのバーテンダーが当番制でシェイカーを振っていたのだが、その中の一人が担当する時に、釣り銭は新券ばかりだった。

当時はPayPayやスマホ自体もなかった。非接触型の支払システムがない時代の話だ。が、釣り銭を貰う側にしてみると、新券は気持ちが良く、その心遣いが嬉しかった。

私も我が儘な店を出した。その憧れの光景を思い出した。そして、余裕ができたら新札でのお釣りを出そうと、2022年1月から用意をし始めた。

が、ご存知のようにPayPayの30%還元が1月31日までおこなわれていたこと。まん延防止等重点措置であることも手伝って、現金で支払う人が実に少なくなった。

用意していた新札は31日を以て終わるだろうことが見えていたため、付き合いのある信用金庫で新札への両替をお願いしたところ、2月から手数料をいただくとのこと。

1日10枚までは無料だが、10枚を超えると500円掛かるという。しかも、これまであった両替機は会員専用となり、年会費12,000円。これを支払うと1日1600枚は両替できると会員になれと促された。

私が欲しいのは新札で3万円程度。それも大多数がPayPayで支払うために、2週間程度は両替しなくても良い。その程度の利用範囲。

さり気ないところで、気持ちを伝える。京都の知る人ぞ知る名店「草食なかひがし」では10円玉に至るまで新貨幣を用意していた。美事な礼節である。

合理化と機能性だけを追求する時代の中で、日本酒という曖昧な存在価値を持つ飲料を専門に提供する店だからこその心遣いができればと思っていただけに悩まされる。

が、それもまた分かる人だけに判る粋の世界なのかもしれないと月を見上げた定休日前の帰り道。独りごちか。


草食(そうじき)なかひがし
https://www.soujiki-nakahigashi.co.jp/
「マイルエンド」は既に閉店。佇まいは残っています。
散策がてら西麻布を徘徊し、見当を付けることをお勧めします。